ただ立ち止まるのも大変

都会の雑踏の中では、急に立ち止まるのは危険である。うしろの人がとっさに反応できずに、慣性でぶつかってしまう恐れがある。そのため立ち止まったり向きを変えたりする必要があるときは、軟着陸を意識しながら、ゆっくりと速度を落として徐々に端に寄っていかないといけない。

ところで先日、何気なく駅前に立ち止まってスマホを見ていたら、知らないおばさんに声をかけられた。

「空きましたよ!」

思いがけないことだったので、うまく反応できずにキョトンとしてしまった。何のこっちゃ、とそのときは思った。

それから冷静になってまわりを見てみると、なんと自分が立っていた位置がATMの待機列に微妙にかぶっていたのだ。無意識に立ち止まった結果、ATMに並ぶか並ばないかという微妙な位置に突っ立っており、ちゃんと並んでる人から見ると一番扱いに困る人になっていた。ただ立っているだけでまわりに迷惑をかけていたことに深く反省した。

いま私が立ち止まってこの文章を書いている場所も、果たして誰にとっても問題のない位置なのか。たとえば、ちょうど真後ろに銅像があるではないか。何気ない銅像ではあるが、今まさに銅像ファンの人が撮影にやってきていて、私がいなくなるのを待っているかもしれない。

ただ立ち止まるのも大変な仕事なのである。